「答え」を教えず「お題」を渡す
~自律型人材を育成する技術~
仲山 進也氏(楽天大学 学長)
「メンバーに自律的に動いてほしい」。そう願いながらも、実際には“教えすぎ”ることでメンバーが指示待ちになったり、仕事を“丸投げ”して現場が混乱したりと、どちらかの極端に振れてしまうことが多い。このジレンマを解消する鍵はどこにあるのか。
本セッションに登壇した楽天大学・学長の仲山進也氏は、人気サッカー漫画『アオアシ』の指導法をひも解きながら、「教える」でも「放任」でもない、第三の道である「お題設計アプローチ」を提唱する。なぜ、良かれと思って教えることがメンバーの成長を阻むのか。人はどのような「お題」を渡されたときに、自ら考え、走りだすのか。独自の「焚き火理論」やユニークなワークショップを通じて語られた、次世代リーダー必修の育成技術をレポートする。
- 仲山 進也氏
- 楽天大学 学長
リーダーが「正解」を持たなくていい理由
「皆さん、自分が呼ばれたい名前を付箋に書いて胸に貼ってください。そして今から7分間で、ここにいる全員の名前を覚えてください。7分後に、テストがあります」
講演の冒頭、仲山氏の声かけとともに会場の空気は一変した。参加者は20名の名前を覚えることに戸惑いながらも、互いの名前を覚え始めた。
このワークは単なるアイスブレイクではなかった。本講演のテーマである「学び合える関係性」を、体感させるための仕掛けだ。
仲山氏は、組織のコミュニケーションの形を以下の三つに分類する。
- 1対マス:マスメディアのような一方通行の発信
- 1対n:先生や上司が個別指導するような「1対1」が複数ある関係
- 1対n対n:リーダーだけでなく、メンバー同士(n対n)が横でつながり合う関係
「多くの組織は、上司がすべての部下を管理・指導する『1対n』の構造になっています。これだとメンバーが壁にぶつかったとき、リーダーは常に『どうしたらよいか教えてください』と具体的な指示を待たれるようになりがち。よかれと思ってそれに応えようとすることが『教えすぎ』につながります。また、リーダーのキャパシティの限界がチームの限界になります。」
仲山氏が提唱する「お題設計アプローチ」の前提となるのが、「1対n対n」の関係性である。「よいお題」と、メンバー同士が教え合い、刺激し合う「横のつながり」があれば、リーダーが答えを教える必要はない。リーダーの役割は、答えを教えることではなく、メンバーが相互作用を起こすような「お題」と「場」を用意することへとシフトする。
冒頭の名前覚えゲームで参加者が体験したのは、まさに「1対n対n」の世界だ。誰かが名前を忘れても、みんながヒントを出し合ってよいルール。リーダー(仲山氏)が答えを教えなくても、参加者同士(n対n)の助け合いで課題を解決していく。さらに、名前を覚え合ったことが布石になり、そのあとのグループディスカッションが自然に盛り上がりやすくなっていたのである。
伝統的アプローチ vs お題設計アプローチ
では、具体的にどのようにメンバーに働きかければよいのか。仲山氏はサッカーの指導を例に、答えを教える従来型の「伝統的アプローチ」と、今回提唱する「お題設計アプローチ」を比較した。
「伝統的アプローチでは、『軸足はボールの横10センチに踏み込んで』『足のこの部分でボールのここをミートして』『足の振りはこうして』と教えます。体の動かし方を細かく指示します」
一見、親切で合理的な指導に見える。しかし、ここには致命的な欠陥がある。身長や筋力、骨格やくせなど、人によって体は千差万別だ。コーチにとっての正解が、選手にとっての最適解であるとは限らない。その結果、意識しているときはできるけれど、意識しなくなると元のくせが出てしまい、教わったことが忘れ去られることになりがちだ。
これに対し、「お題設計アプローチ」では次のように指導する。
「『この場所から15メートル先のゴールにボールをノーバウンドで入れてください。ただし、途中に障害物があるので、その上を通す軌道にすること』と伝えます。身体の動かし方は一切指示しません。提示するのは『目指すべき成果(ゴール)』と『制約条件』だけです」
こうした指導に対し、選手は試行錯誤を余儀なくされる。「普通に蹴ったらボールが浮かないから、少し身体を寝かせてみよう」「足の甲じゃなくてインサイドで蹴ってみよう」と、自分なりに感覚をつかんでいく。
「誰かに教えられた通りに動くのではなく、自分で試行錯誤してつかみ取った感覚は、一生忘れない技術になります。リーダーの役割は、答えを教えることではなく、メンバーが試行錯誤できるような良質な『お題』を設計することです」
「愚者風リーダーシップ」がメンバーの能力を引き出す
このお題設計アプローチを実践するためには、リーダーの在り方も変える必要がある。仲山氏はこれを「愚者風リーダーシップ」と呼ぶ。
「賢者風リーダー」は、すべての答えを知っていて、メンバーに正解を授ける。しかし、それはメンバーの思考を停止させることにつながってしまう。対して「愚者風リーダー」は、「私にはあなたにとっての最適解は分かりません」というスタンスをとる。メンバーが自分にとっての答えを見つけやすいお題を設計し、見守ることで成長を引き出すのだ。
「型」と「制約条件」の設計方程式
概念は分かっても、いざ実践するとなると難しい。「丸投げ」と「お題」の境界線はどこにあるのか。
「答えを教えないと、一見何も教えていないように見えます。でも、お題設計アプローチや愚者風リーダーシップは、何も教えないわけではありません」
仲山氏は、お題の構造をシンプルな図で提示した。
お題とは「この型を使って、このタスク(課題)をしてください。ただしこの条件を満たすこと」という「問い」のことだ。お題を使いこなすには、「型」と「制約条件」を正しく理解することが欠かせない。仲山氏は以下の2点に注意してお題を設計すべきだと語る。
1.「生成の型」を提示する
専門家によると「型」には二種類ある。一つは「たい焼きの型」のように、誰がやっても同じ結果(複製)を作るための型だ。マニュアル化された定型業務などがこれにあたる。もう一つが、お題設計で用いる「生成の型」だ。
「武道の『型』は、『この仕事をやるにあたっては、必ずこの視点や基準を押さえなければいけない』というものです。そこさえ押さえれば、最終的なアウトプットの形はそれぞれの人の個性や強みを生かした状態でよいということになります」
例えば、営業であれば「顧客の課題を聞き出すヒアリングの型」、企画であれば「アイデアを発散させ収束させるフレームワーク」などがこれにあたる。リーダーは、自分の経験則の中から勘所を言語化し、型としてメンバーに渡す必要がある。
2.レベルに合わせて「制約条件」をチューニングする
「制約条件」とは、メンバーの熟練度に合わせて調整する難易度の調整弁である。初心者に「自由にやってみて」と言うのは、選択肢が多すぎて迷ってしまうか、ムダな試行錯誤をしてしまうことにつながりやすい。逆に、ベテランに「この手順通りにやって」と言うのは、「そのやり方である必要なくない?」と思われる手順であった場合、モチベーションを削ぐことにつながる。
「制約条件の典型に、締め切りがあります。ベテランの人に仕事を頼むときは、『Aの作業はいつまでにやらないと後の工程に影響が出る』みたいなことがわかっているので、いちいちAの作業の締め切りを設定しなくても問題ありません。一方で、そのあたりの全体像がわかっていない新人に仕事を頼むときは、「Aの作業はいつまでに終わらせること」という制約条件を設けた方が無駄な失敗をせずにすむでしょう。
制約条件をチューニングする目的は、選択肢を適切に絞り込んで相手を動きやすくすることです。型は相手が誰であろうと変わらず共通ですが、制約条件は相手に合わせてデザインします」
ケーススタディ:189万円の甲冑をどう売る?
次に、この理論を体感するためのケーススタディが行われた。 お題は「189万円の等身大の甲冑(かっちゅう)を、マニア以外の人に売る方法を考える」というものだ。
「どうやって売りますか」という仲山氏の問いかけに、多くの参加者が頭を悩ませる。「お金を持っている外国人に売る」や「大谷翔平選手に着てもらってプレミアをつける」といったアイデアが出てきた。
実際にこの甲冑を購入した顧客のレビューが紹介されると、会場からは驚きの声が上がった。購入理由は「孫の初節句を祝いたい」「新生児がすこやかに育ってほしい」という、エモーショナルなものだったのだ。
ここで仲山氏が提示した「型」が、「答えはお客さんの声にある」という点と、マーケティングのフレームワーク「BAS(バス)」だ。
- Benefit(ベネフィット):商品の先にあるハッピー(顧客が得られる未来、感情的価値)
- Advantage(アドバンテージ):同種同類の商品より優れた点(競合優位性)
- Spec(スペック):仕様
「売れない人はA(アドバンテージ)とS(スペック)を語りますが、売れる人はB(ベネフィット)から入ります」
続けて仲山氏が語ったのは、
「これを踏まえて、いよいよお題です。『BAS』の型を使って、自分の商品の紹介ページを作ってください。ベネフィットとして、「お客さんの声」を三つ以上、載せること(制約条件)」
という内容だった。
「ベテランであれば『BASの型を使ってください』だけでよいですが、お客さんの声に答えがあると気づいていない人には、『お客さんの声(ベネフィット)を入れる』という制約を加えると、望ましい行動が引き出されやすくなります。
お題設計が難しいという人が多いのですが、それは『型を言語化できていない』というパターンがほとんどです。型はオリジナルで考えたものである必要はないので、ビジネス書に載っているフレームワークを使っても構いません。『これは自分にとって正解だ』と思える生成の型を普段から収集していれば、お題は作りやすくなります」
質疑応答
参加者:適切な「お題」を与えることは、モチベーションの高いメンバーには響くと思いますが、やる気のない層には、どのようにアプローチすればいいのでしょうか。
仲山氏:永遠の課題ですね。私はこれを「焚き火」で考えるようにしています。
焚き火をするとき、湿った薪を投入しますか? 投入すると、火が消えたり、くすぶったりしますよね。だからよほど火力が強くなってからでないと投入しないはずです。なので、まずは燃えている薪や乾いている薪だけで焚き火を燃やす。かといって、湿った薪をそのまま放置しておいても使えないので、たいてい火の近くに持ってきて乾かしますよね?
乾かすという行為を組織に置き換えると、どうなるか。燃えている活動をクローズドでやっていても熱量が伝わらないので、活動内容を発信することです。その熱量を受け取った人のうち、乾いた人が『自分も入れて』と近づいてくるはず。
これを冒頭の「1対n対n」にからめて考えると、上司が個別に「やる気を出せ」と説教しても、湿った薪は乾きません。でも、隣の同僚が、お題に取り組んで成果を出し、楽しそうに働いている。ネットショップの店長仲間から「あいつ、急に月商1000万超えたらしいよ」なんて話が聞こえてくる。 そうやって横のメンバーの変化を肌で感じると、「あいつができるなら俺も」「なんか面白そうだな」と、内側から変化が起きます。
参加者:よく新人にはティーチング、ベテランにはコーチングと聞きますが、このお題設計アプローチは新人にもベテランにも使えますか。
仲山氏:活用できます。ポイントは、「正解があるものはお題にしない」ことです。
新人には、型やマニュアルを渡した上で、「この型やマニュアルを使って、仕事をしてください」というお題を出します。単にマニュアル通りに作業させるのではなく、「マニュアル作業を含む正解のないタスク」をお題にするわけです。
型を熟知しているベテランには、チャレンジングかつ難易度がちょうどよいお題を提案すると、飽きずに仕事を楽しんでもらうことができるはず。そうした個別のチューニングが大事です。